憲法択一 人権 基本的人権の原理 人権の享有主体性 八幡 国労広島 南九州 群馬


・天皇も人権享有主体となると考えることができるが、天皇は国政に関する権能を有しないため、選挙権や被選挙権等の参政権は認められない!!
+第四条
1項 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない
2項 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。

・憲法第3章の人権規定は、法人についても性質上可能な限り適用される!
+判例(45.6.24 八幡)

上告代理人有賀正明、同吉田元、同長岡邦の上告理由第二点ならびに上告人の上告理由第一および第二について。
原審の確定した事実によれば、訴外八幡製鉄株式会社は、その定款において、「鉄鋼の製造および販売ならびにこれに附帯する事業」を目的として定める会社であるが、同会社の代表取締役であつた被上告人両名は、昭和三五年三月一四日、同会社を代表して、自由民主党に政治資金三五〇万円を寄附したものであるというにあるところ、論旨は、要するに、右寄附が同会社の定款に定められた目的の範囲外の行為であるから、同会社は、右のような寄附をする権利能力を有しない、というのである。
会社は定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有するわけであるが、目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行するうえに直接または間接に必要な行為であれば、すべてこれに包含されるものと解するのを相当とする。そして必要なりや否やは、当該行為が目的遂行上現実に必要であつたかどうかをもつてこれを決すべきではなく、行為の客観的な性質に即し、抽象的に判断されなければならないのである(最高裁昭和二四年(オ)第六四号・同二七年二月一五日第二小法廷判決・民集六巻二号七七頁、同二七年(オ)第一〇七五号・同三〇年一一月二九日第三小法廷判決・民集九巻一二号一八八六頁参照)。

ところで、会社は、一定の営利事業を営むことを本来の目的とするものであるから、会社の活動の重点が、定款所定の目的を遂行するうえに直接必要な行為に存することはいうまでもないところである。しかし、会社は、他面において、自然人とひとしく、国家、地方公共団体、地域社会その他(以下社会等という。)の構成単位たる社会的実在なのであるから、それとしての社会的作用を負担せざるを得ないのであつて、ある行為が一見定款所定の目的とかかわりがないものであるとしても、会社に、社会通念上、期待ないし要請されるものであるかぎり、その期待ないし要請にこたえることは、会社の当然になしうるところであるといわなければならない。そしてまた、会社にとつても、一般に、かかる社会的作用に属する活動をすることは、無益無用のことではなく、企業体としての円滑な発展を図るうえに相当の価値と効果を認めることもできるのであるから、その意味において、これらの行為もまた、間接ではあつても、目的遂行のうえに必要なものであるとするを妨げない。災害救援資金の寄附、地域社会への財産上の奉仕、各種福祉事業への資金面での協力などはまさにその適例であろう。会社が、その社会的役割を果たすために相当を程度のかかる出捐をすることは、社会通念上、会社としてむしろ当然のことに属するわけであるから、毫も、株主その他の会社の構成員の予測に反するものではなく、したがつて、これらの行為が会社の権利能力の範囲内にあると解しても、なんら株主等の利益を害するおそれはないのである。

以上の理は、会社が政党に政治資金を寄附する場合においても同様である。憲法は政党について規定するところがなく、これに特別の地位を与えてはいないのであるが、憲法の定める議会制民主主義は政党を無視しては到底その円滑な運用を期待することはできないのであるから、憲法は、政党の存在を当然に予定しているものというべきであり、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なのである。そして同時に、政党は国民の政治意思を形成する最も有力な媒体であるから、政党のあり方いかんは、国民としての重大な関心事でなければならない。したがつて、その健全な発展に協力することは、会社に対しても、社会的実在としての当然の行為として期待されるところであり、協力の一態様として政治資金の寄附についても例外ではないのである。論旨のいうごとく、会社の構成員が政治的信条を同じくするものでないとしても、会社による政治資金の寄附が、特定の構成員の利益を図りまたその政治的志向を満足させるためでなく、社会の一構成単位たる立場にある会社に対し期待ないし要請されるかぎりにおいてなされるものである以上、会社にそのような政治資金の寄附をする能力がないとはいえないのである。上告人のその余の論旨は、すべて独自の見解というほかなく、採用することができない。要するに、会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎりにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為であるとするに妨げないのである。
原判決は、右と見解を異にする点もあるが、本件政治資金の寄附が八幡製鉄株式会社の定款の目的の範囲内の行為であるとした判断は、結局、相当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。

上告代理人有賀正明、同吉田元、同長岡邦の上告理由第一点および上告人の上告理由第四について。論旨は、要するに、株式会社の政治資金の寄附が、自然人である国民にのみ参政権を認めた憲法に反し、したがつて、民法九〇条に反する行為であるという。
憲法上の選挙権その他のいわゆる参政権が自然人たる国民にのみ認められたものであることは、所論のとおりである。しかし、会社が、納税の義務を有し自然人たる国民とひとしく国税等の負担に任ずるものである以上、納税者たる立場において、国や地方公共団体の施策に対し、意見の表明その他の行動に出たとしても、これを禁圧すべき理由はない。ヘーー のみならず、憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきであるから、会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。政治資金の寄附もまさにその自由の一環であり、会社によつてそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあつたとしても、これを自然人たる国民による寄附と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない。論旨は、会社が政党に寄附をすることは国民の参政権の侵犯であるとするのであるが、政党への寄附は、事の性質上、国民個々の選挙権その他の参政権の行使そのものに直接影響を及ぼすものではないばかりでなく、政党の資金の一部が選挙人の買収にあてられることがあるにしても、それはたまたま生ずる病理的現象に過ぎず、しかも、かかる非違行為を抑制するための制度は厳として存在するのであつて、いずれにしても政治資金の寄附が、選挙権の自由なる行使を直接に侵害するものとはなしがたい。会社が政治資金寄附の自由を有することは既に説示したとおりであり、それが国民の政治意思の形成に作用することがあつても、あながち異とするには足りないのである。所論は大企業による巨額の寄附は金権政治の弊を産むべく、また、もし有力株主が外国人であるときは外国による政治干渉となる危険もあり、さらに豊富潤沢な政治資金は政治の腐敗を醸成するというのであるが、その指摘するような弊害に対処する方途は、さしあたり、立法政策にまつべきことであつて、憲法上は、公共の福祉に反しないかぎり、会社といえども政治資金の寄附の自由を有するといわざるを得ず、これをもつて国民の参政権を侵害するとなす論旨は採用のかぎりでない。 
以上説示したとおり、株式会社の政治資金の寄附はわが憲法に反するものではなく、したがつて、そのような寄附が憲法に反することを前提として、民法九〇条に違反するという論旨は、その前提を欠くものといわなければならない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用しがたい。

上告代理人有賀正明、同吉田元、同長岡邦の上告理由第三点および上告人の上告理由第三について。論旨は、要するに、被上告人らの本件政治資金の寄附は、商法二五四条ノ二に定める取締役の忠実義務に違反するというのである。
商法二五四条ノ二の規定は、同法二五四条三項民法六四四条に定める善管義務を敷衍し、かつ一層明確にしたにとどまるのであつて、所論のように、通常の委任関係に伴う善管義務とは別個の、高度な義務を規定したものとは解することができない。
ところで、もし取締役が、その職務上の地位を利用し、自己または第三者の利益のために、政治資金を寄附した場合には、いうまでもなく忠実義務に反するわけであるが、論旨は、被上告人らに、具体的にそのような利益をはかる意図があつたとするわけではなく、一般に、この種の寄附は、国民個々が各人の政治的信条に基づいてなすべきものであるという前提に立脚し、取締役が個人の立場で自ら出捐するのでなく、会社の機関として会社の資産から支出することは、結果において会社の資産を自己のために費消したのと同断だというのである。会社が政治資金の寄附をなしうることは、さきに説示したとおりであるから、そうである以上、取締役が会社の機関としてその衝にあたることは、特段の事情のないかぎり、これをもつて取締役たる地位を利用した、私益追及の行為だとすることのできないのはもちろんである。論旨はさらに、およそ政党の資金は、その一部が不正不当に、もしくは無益に、乱費されるおそれがあるにかかわらず、本件の寄附に際し、被上告人らはこの事実を知りながら敢て目をおおい使途を限定するなど防圧の対策を講じないまま、漫然寄附をしたのであり、しかも、取締役会の審議すら経ていないのであつて、明らかに忠実義務違反であるというのである。ところで、右のような忠実義務違反を主張する場合にあつても、その挙証責任がその主張者の負担に帰すべきことは、一般の義務違反の場合におけると同様であると解すべきところ、原審における上告人の主張は、一般に、政治資金の寄附は定款に違反しかつ公序を紊すものであるとなし、したがつて、その支出に任じた被上告人らは忠実義務に違反するものであるというにとどまるのであつて、被上告人らの具体的行為を云々するものではない。もとより上告人はその点につき何ら立証するところがないのである。したがつて、論旨指摘の事実は原審の認定しないところであるのみならず、所論のように、これを公知の事実と目すべきものでないことも多言を要しないから、被上告人らの忠実義務違反をいう論旨は前提を欠き、肯認することができない。いうまでもなく取締役が会社を代表して政治資金の寄附をなすにあたつては、その会社の規模、経営実績その他社会的経済的地位および寄附の相手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内において、その金額等を決すべきであり、右の範囲を越え、不相応な寄附をなすがごときは取締役の忠実義務に違反するというべきであるが、原審の確定した事実に即して判断するとき、八幡製鉄株式会社の資本金その他所論の当時における純利益、株主配当金等の額を考慮にいれても、本件寄附が、右の合理的な範囲を越えたものとすることはできないのである。
以上のとおりであるから、被上告人らがした本件寄附が商法二五四条ノ二に定める取締役の忠実義務に違反しないとした原審の判断は、結局相当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨はこの点についても採用することができない。

上告人の上告理由第五について。
所論は、原判決の違法をいうものではないから、論旨は、採用のかぎりでない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官入江俊郎、同長部謹吾、同松田二郎、同岩田誠、同大隅健一郎の意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

++裁判官松田二郎の意見もあったりする・・・今後補足。

・信教の自由(20条1項前段)のうちの信仰の自由は、個人の内面的精神活動に関する自由であることから、自然人についてのみ認められる!!!

・信教の自由のうちの宗教的行為の自由、宗教的結社の自由については、その性質上、宗教法人などの法人にも認められる!!!

・法人は、自然人である国民と同様に、国や政党の特定の政策を推進し又は反対するなどの政治的行為をなす自由を有する!

・憲法上の選挙権その他の参政権は自然人である国民にのみ認められたものである!!

・会社は、自然人たる国民と同様、政治的行為をなす自由を有し、政治資金の寄付もまさにその自由の一環であるとしたうえで、会社によってそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあったとしても、これを自然人たる国民による寄付と別異に扱うべき憲法上の要請はない!!!

・労働組合による統制と組合員が市民又は人間として有する自由や権利とが矛盾衝突する場合、問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較衡量して、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えるべきである!!

+判例(S50.11.28)国労広島地本
上告代理人大野正男、同西田公一、同外山佳昌の上告状記載の上告理由及び上告理由書記載の上告理由について
一 原判決によれば、上告組合がその組合員から徴収することを決定した本件各臨時組合費のうち、(1) 原判示の炭労資金三五〇円(組合員一人あたりの額。以下同じ。)及び春闘資金中の三〇円は、上告組合が日本炭鉱労働組合(以下「炭労」という。)の三井三池炭鉱を中心とする企業整備反対闘争を支援するための資金、(2) 原判示の安保資金五〇円は、昭和三五年に行われたいわゆる安保反対闘争により上告組合の組合員多数が民事上又は刑事上の不利益処分を受けたので、これら被処分者を救援するための資金(ただし、右資金は、いつたん上部団体である日本労働組合総評議会に上納され、他組合からの上納金と一括されたうえ、改めて救援資金として上告組合に配分されることになつていた。)、(3) 原判示の政治意識昂揚資金二〇円は、上告組合が昭和三五年一一月の総選挙に際し同組合出身の立候補者の選挙運動を応援するために、それぞれの所属政党に寄付する資金である、というのである。本件は、上告組合がその組合員であつた被上告人らに対して右各臨時組合費の支払を請求する事案であるが、原審は、労働組合は組合員の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上という目的の遂行のために現実に必要な活動についてのみ組合員から臨時組合費を徴収することができるとの見解を前提としたうえ、右(1)については、上告組合が炭労の企業整備反対闘争を支援することは右目的の範囲外であるとし、(2)については、いわゆる安保反対闘争自体が右目的の達成に必要な行為ではないから、これに参加して違法行為をしたことにより処分を受けた組合員を救援することも目的の範囲を超えるものであるとし、更に、(3)については、選挙応援資金の拠出を強制することは組合員の政治的信条の自由に対する侵害となるから許されないとし、結局、右いずれの臨時組合費の徴収決議も法律上無効であつて、被上告人らにはこれを納付する義務がない、と判断している。
論旨は、要するに、原審の前提とした労働組合の目的の範囲に関する一般的判断につき民法四三条、労働組合法二条、上告組合規約三条、四条の解釈適用の誤り及び理由齟齬の違法を主張するとともに、右(1)に関する判断には、同組合規約三条、四条の解釈適用を誤り、社会通念及び経験則に違反した違法、同(2)に関する判断には、憲法二八条、労働組合法二条、同組合規約三条、四条の解釈適用を誤り、条理及び判例に違反した違法、同(3)に関する判断には、憲法一九条、二一条、二八条、労働組合法二条、民法九〇条の解釈適用を誤り、条理及び判例に違反した違法がある、というのである。

二 思うに、労働組合の組合員は、組合の構成員として留まる限り、組合が正規の手続に従つて決定した活動に参加し、また、組合の活動を妨害するような行為を避止する義務を負うとともに、右活動の経済的基礎をなす組合費を納付する義務を負うものであるが、これらの義務(以下「協力義務」という。)は、もとより無制限のものではない。労働組合は、労働者の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的とする団体であつて、組合員はかかる目的のための活動に参加する者としてこれに加入するのであるから、その協力義務も当然に右目的達成のために必要な団体活動の範囲に限られる。しかし、いうまでもなく、労働組合の活動は、必ずしも対使用者との関係において有利な労働条件を獲得することのみに限定されるものではない。労働組合は、歴史的には、使用者と労働者との間の雇用関係における労働者側の取引力の強化のために結成され、かかるものとして法認されてきた団体ではあるけれども、その活動は、決して固定的ではなく、社会の変化とそのなかにおける労働組合の意義や機能の変化に伴つて流動発展するものであり、今日においては、その活動の範囲が本来の経済的活動の域を超えて政治的活動、社会的活動、文化的活動など広く組合員の生活利益の擁護と向上に直接間接に関係する事項にも及び、しかも更に拡大の傾向を示しているのである。このような労働組合の活動の拡大は、そこにそれだけの社会的必然性を有するものであるから、これに対して法律が特段の制限や規制の措置をとらない限り、これらの活動そのものをもつて直ちに労働組合の目的の範囲外であるとし、あるいは労働組合が本来行うことのできない行為であるとすることはできない
しかし、このように労働組合の活動の範囲が広く、かつ弾力的であるとしても、そのことから、労働組合がその目的の範囲内においてするすべての活動につき当然かつ一様に組合員に対して統制力を及ぼし、組合員の協力を強制することができるものと速断することはできない。労働組合の活動が組合員の一般的要請にこたえて拡大されるものであり、組合員としてもある程度まではこれを予想して組合に加入するのであるから、組合からの脱退の自由が確保されている限り、たとえ個々の場合に組合の決定した活動に反対の組合員であつても、原則的にはこれに対する協力義務を免れないというべきであるが、労働組合の活動が前記のように多様化するにつれて、組合による統制の範囲も拡大し、組合員が一個の市民又は人間として有する自由や権利と矛盾衝突する場合が増大し、しかも今日の社会的条件のもとでは、組合に加入していることが労働者にとつて重要な利益で、組合脱退の自由も事実上大きな制約を受けていることを考えると、労働組合の活動として許されたものであるというだけで、そのことから直ちにこれに対する組合員の協力義務を無条件で肯定することは、相当でないというべきである。それゆえ、この点に関して格別の立法上の規制が加えられていない場合でも、問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である。
そこで、以上のような見地から本件の前記各臨時組合費の徴収の許否について判断する。

三 炭労資金(春闘資金中三〇円を含む。)について
右資金は、上告組合自身の闘争のための資金ではなく、他組合の闘争に対する支援資金である。労働組合が他の友誼組合の闘争を支援する諸活動を行うことは、しばしばみられるところであるが、労働組合ないし労働者間における連帯と相互協力の関係からすれば、労働組合の目的とする組合員の経済的地位の向上は、当該組合かぎりの活動のみによつてではなく、広く他組合との連帯行動によつてこれを実現することが予定されているのであるから、それらの支援活動は当然に右の目的と関連性をもつものと考えるべきであり、また、労働組合においてそれをすることがなんら組合員の一般的利益に反するものでもないのである。それゆえ、右支援活動をするかどうかは、それが法律上許されない等特別の場合でない限り、専ら当該組合が自主的に判断すべき政策問題であつて、多数決によりそれが決定された場合には、これに対する組合員の協力義務を否定すべき理由はない。右支援活動の一環としての資金援助のための費用の負担についても同様である。
のみならず、原判決は、本件支援の対象となつた炭労の闘争が、石炭産業の合理化に伴う炭鉱閉鎖と人員整理を阻止するため、使用者に対して企業整備反対の闘争をすると同時に、政府に対して石炭政策転換要求の闘争をすることを内容としたものであつて、右石炭政策転換闘争において炭労が成功することは、当時上告組合自身が行つていた国鉄志免炭鉱の閉山反対闘争を成功させるために有益であつたとしながら、本件支援資金が、炭労の右石炭政策転換闘争の支援を直接目的としたものでなく、主としてその企業整備反対闘争を支援するための資金であつたことを理由に、これを拠出することが上告組合の目的達成に必要なものではなかつたと判断しているのであるが、炭労の前記闘争目的から合理的に考えるならば、その石炭政策転換闘争と企業整備反対闘争とは決して無関係なものではなく、企業整備反対闘争の帰すうは石炭政策転換闘争の成否にも影響するものであつたことがうかがわれるのであり、そうである以上、直接には企業整備反対闘争を支援するための資金であつても、これを拠出することが石炭政策転換闘争の支援につながり、ひいて上告組合自身の前記闘争の効果的な遂行に資するものとして、その目的達成のために必要のないものであつたとはいいがたいのである。
してみると、前記特別の場合にあたるとは認められない本件において、被上告人らが右支援資金を納付すべき義務を負うことは明らかであり、これを否定した原審及び第一審の判断は誤りというほかなく、その違法をいう論旨は理由がある。

四 安保資金について
右資金は、いわゆる安保反対闘争に参加して処分を受けた組合員を救援するための資金であるが、後記五の政治意識昂揚資金とともに、労働組合の政治的活動に関係するので、以下においては、まず労働組合の政治的活動に対する組合員の協力義務について一般的に考察し、次いで右政治的活動による被処分者に対する救援の問題に及ぶこととする。
1 既に述べたとおり、労働組合が労働者の生活利益の擁護と向上のために、経済的活動のほかに政治的活動をも行うことは、今日のように経済的活動と政治的活動との間に密接ないし表裏の関係のある時代においてはある程度まで必然的であり、これを組合の目的と関係のない行為としてその活動領域から排除することは、実際的でなく、また当を得たものでもない。それゆえ、労働組合がかかる政治的活動をし、あるいは、そのための費用を組合基金のうちから支出すること自体は、法的には許されたものというべきであるが、これに対する組合員の協力義務をどこまで認めうるかについては、更に別個に考慮することを要する。
すなわち、一般的にいえば、政治的活動は一定の政治的思想、見解、判断等に結びついて行われるものであり、労働組合の政治的活動の基礎にある政治的思想、見解、判断等は、必ずしも個々の組合員のそれと一致するものではないから、もともと団体構成員の多数決に従つて政治的行動をすることを予定して結成された政治団体とは異なる労働組合としては、その多数決による政治的活動に対してこれと異なる政治的思想、見解、判断等をもつ個々の組合員の協力を義務づけることは、原則として許されないと考えるべきである。かかる義務を一般的に認めることは、組合員の個人としての政治的自由、特に自己の意に反して一定の政治的態度や行動をとることを強制されない自由を侵害することになるからである。
しかしながら、労働組合の政治的活動とそれ以外の活動とは実際上しかく截然と区別できるものではなく、一定の行動が政治的活動であると同時に経済的活動としての性質をもつことは稀ではないし、また、それが政治的思想、見解、判断等と関係する度合いも必ずしも一様ではない。したがつて、労働組合の活動がいささかでも政治的性質を帯びるものであれば、常にこれに対する組合員の協力を強制することができないと解することは、妥当な解釈とはいいがたい。例えば、労働者の権利利益に直接関係する立法や行政措置の促進又は反対のためにする活動のごときは、政治的活動としての一面をもち、そのかぎりにおいて組合員の政治的思想、見解、判断等と全く無関係ではありえないけれども、それとの関連性は稀薄であり、むしろ組合員個人の政治的立場の相違を超えて労働組合本来の目的を達成するための広い意味における経済的活動ないしはこれに付随する活動であるともみられるものであつて、このような活動について組合員の協力を要求しても、その政治的自由に対する制約の程度は極めて軽微なものということができる。それゆえ、このような活動については、労働組合の自主的な政策決定を優先させ、組合員の費用負担を含む協力義務を肯定すべきである。
これに対し、いわゆる安保反対闘争のような活動は、究極的にはなんらかの意味において労働者の生活利益の維持向上と無縁ではないとしても、直接的には国の安全や外交等の国民的関心事に関する政策上の問題を対象とする活動であり、このような政治的要求に賛成するか反対するかは、本来、各人が国民の一人としての立場において自己の個人的かつ自主的な思想、見解、判断等に基づいて決定すべきことであるから、それについて組合の多数決をもつて組合員を拘束し、その協力を強制することを認めるべきではない。もつとも、この種の活動に対する費用負担の限度における協力義務については、これによつて強制されるのは一定額の金銭の出捐だけであつて、問題の政治的活動に関してはこれに反対する自由を拘束されるわけではないが、たとえそうであるとしても、一定の政治的活動の費用としてその支出目的との個別的関連性が明白に特定されている資金についてその拠出を強制することは、かかる活動に対する積極的協力の強制にほかならず、また、右活動にあらわされる一定の政治的立場に対する支持の表明を強制するにも等しいものというべきであつて、やはり許されないとしなければならない。
2 次に、右安保反対闘争のような政治的活動に参加して不利益処分を受けた組合員に対する救援の問題について考えると、労働組合の行うこのような救援そのものは、組合の主要な目的の一つである組合員に対する共済活動として当然に許されるところであるが、それは同時に、当該政治的活動のいわば延長としての性格を有することも否定できないしかし、労働組合が共済活動として行う救援の主眼は、組織の維持強化を図るために、被処分者の受けている生活その他の面での不利益の回復を経済的に援助してやることにあり、処分の原因たる行為のいかんにかかわるものではなく、もとよりその行為を支持、助長することを直接目的とするものではないから、右救援費用を拠出することが直ちに処分の原因たる政治的活動に積極的に協力することになるものではなく、また、その活動のよつて立つ一定の政治的立場に対する支持を表明することになるものでもないというべきである。したがつて、その拠出を強制しても、組合員個人の政治的思想、見解、判断等に関係する程度は極めて軽微なものであつて、このような救援資金については、先に述べた政治的活動を直接の目的とする資金とは異なり、組合の徴収決議に対する組合員の協力義務を肯定することが、相当である。なお、処分の原因たる被処分者の行為は違法なものでもありうるが、右に述べた救援の目的からすれば、そのことが当然には協力義務を否定する理由となるものではない(当裁判所昭和四八年(オ)第四九八号組合費請求事件同五〇年一一月二八日第三小法廷判決参照)。
3 ところで、本件において原審の確定するところによれば、前記安保資金は、いわゆる安保反対闘争による処分が行われたので専ら被処分者を救援するために徴収が決定されたものであるというのであるから、右の説示に照らせば、被上告人らはこれを納付する義務を負うことが明らかであるといわなければならない。それゆえ、これを否定した原審及び第一審の判断は誤りであり、その違法をいう論旨は理由がある。

五 政治意識昂揚資金について
右資金は、総選挙に際し特定の立候補者支援のためにその所属政党に寄付する資金であるが、政党や選挙による議員の活動は、各種の政治的課題の解決のために労働者の生活利益とは関係のない広範な領域にも及ぶものであるから、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかは、投票の自由と表裏をなすものとして、組合員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断ないしは感情等に基づいて自主的に決定すべき事柄である。したがつて、労働組合が組織として支持政党又はいわゆる統一候補を決定し、その選挙運動を推進すること自体は自由であるが(当裁判所昭和三八年(あ)第九七四号同四三年一二月四日大法廷判決・刑集二二巻一三号一四二五頁参照)、組合員に対してこれへの協力を強制することは許されないというべきであり、その費用の負担についても同様に解すべきことは、既に述べたところから明らかである。これと同旨の理由により本件政治意識昂揚資金について被上告人らの納付義務を否定した原審の判断は正当であつて、所論労働組合法又は民法の規定の解釈適用を誤つた違法はない。また、所論違憲の主張は、その実質において原判決に右違法のあることをいうものであるか、独自の見解を前提として原判決の違憲を主張するものにすぎないから、失当であり、更に、所諭引用の判例も、事案を異にし、本件に適切でない。この点に関する論旨は、採用することができない。
六 以上のとおりであるから、原判決及び第一審判決中、本件炭労資金(春闘資金中三〇円を含む。)及び安保資金について上告人の請求を認めなかつた部分は違法として破棄又は取消を免れず、右部分に関する上告人の請求はすべてこれを認容すべきであり、また、その余の上告は、理由がないものとして棄却すべきである。

++補足意見もあり

・労働組合が、その実施する政治闘争に必要となる費用を臨時組合費として徴収する旨の組合決議を行った場合でも、組合員に納付義務はない!!
←上の判決の政治意識昂揚資金についての判断?

・政治資金規正法上の政治団体に寄付するか否かは選挙における投票の自由と表裏をなし、各人が個人的な政治思想に基づいて自主的に決定すべき事項であるから、会員に脱退の自由のない強制加入団体である税理士会が、上記寄付のために特別会費の納入を会員に強制することは許されない。

+(H8.3.19)南九州税理士会事件
上告代理人馬奈木昭雄、同板井優、同浦田秀徳、同加藤修、同椛島敏雅、同田中利美、同西清次郎、同藤尾順司、同吉井秀広の上告理由第一点、第四点、第五点、上告代理人上条貞夫、同松井繁明の上告理由、上告代理人諌山博の上告理由及び上告人の上告理由について
一 右各上告理由の中には、被上告人が政治資金規正法(以下「規正法」という。)上の政治団体へ金員を寄付することが彼上告人の目的の範囲外の行為であり、そのために本件特別会費を徴収する旨の本件決議は無効であるから、これと異なり、右の寄付が被上告人の目的の範囲内であるとした上、本件特別会費の納入義務を肯認した原審の判断には、法令の解釈を誤った違法があるとの論旨が含まれる。以下、右論旨について検討する。

二 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 被上告人は、税理士法(昭和五五年法律第二六号による改正前のもの。以下単に「法」という。)四九条に基づき、熊本国税局の管轄する熊本県、大分県、宮崎県及び鹿児島県の税理士を構成員として設立された法人であり、日本税理士会連合会(以下「日税連」という。)の会員である(法四九条の一四第四項)。被上告人の会則には、被上告人の目的として法四九条二項と同趣旨の規定がある。
2 南九州税理士政治連盟(以下「南九税政」という。)は、昭和四四年一一月八日、税理士の社会的、経済的地位の向上を図り、納税者のための民主的税理士制度及び租税制度を確立するため必要な政治活動を行うことを目的として設立されたもので、被上告人に対応する規正法上の政治団体であり、日本税理士政治連盟の構成員である。
3 熊本県税理士政治連盟、大分県税理士政治連盟、宮崎県税理士政治連盟及び鹿児島県税理士政治連盟(以下、一括して「南九各県税政」という。)は、南九税政傘下の都道府県別の独立した税政連として、昭和五一年七、八月にそれぞれ設立されたもので、規正法上の政治団体である。
4 被上告人は、本件決議に先立ち、昭和五一年六月二三日、被上告人の第二〇回定期総会において、税理士法改正運動に要する特別資金とするため、全額を南九各県税政へ会員数を考慮して配付するものとして、会員から特別会費五〇〇〇円を徴収する旨の決議をした。被上告人は、右決議に基づいて徴収した特別会費四七〇万円のうち四四六万円を南九各県税政へ、五万円を南九税政へそれぞれ寄付した。
5 被上告人は、昭和五三年六月一六日、第二二回定期総会において、再度、税理士法改正運動に要する特別資金とするため、各会員から本件特別会費五〇〇〇円を徴収する、納期限は昭和五三年七月三一日とする、本件特別会費は特別会計をもって処理し、その使途は全額南九各県税政へ会員数を考慮して配付する、との内容の本件決議をした。
6 当時の被上告人の特別会計予算案では、本件特別会費を特別会計をもって処理し、特別会費収入を五〇〇〇円の九六九名分である四八四万五〇〇〇円とし、その全額を南九各県税政へ寄付することとされていた。
7 上告人は、昭和三七年一一月以来、被上告人の会員である税理士であるが、本件特別会費を納入しなかった
8 被上告人の役員選任規則には、役員の選挙権及び被選挙権の欠格事由として「選挙の年の三月三一日現在において本部の会費を滞納している者」との規定がある。
9 被上告人は、右規定に基づき、本件特別会費の滞納を理由として、昭和五四年度、同五六年度、同五八年度、同六〇年度、同六二年度、平成元年度、同三年度の各役員選挙において、上告人を選挙人名簿に登載しないまま役員選挙を実施した。

三 上告人の本件請求は、南九各県税政へ被上告人が金員を寄付することはその目的の範囲外の行為であり、そのための本件特別会費を徴収する旨の本件決議は無効であるなどと主張して、被上告人との間で、上告人が本件特別会費の納入義務を負わないことの確認を求め、さらに、被上告人が本件特別会費の滞納を理由として前記のとおり各役員選挙において上告人の選挙権及び被選挙権を停止する措置を採ったのは不法行為であると主張し、被上告人に対し、これにより被った慰謝料等の一部として五〇〇万円と遅延損害金の支払を求めるものである。

四 原審は、前記二の事実関係の下において、次のとおり判断し、上告人の右各請求はいずれも理由がないと判断した。
1 法四九条の一二の規定や同趣旨の被上告人の会則のほか、被上告人の法人としての性格にかんがみると、被上告人が、税理士業務の改善進歩を図り、納税者のための民主的税理士制度及び租税制度の確立を目指し、法律の制定や改正に関し、関係団体や関係組織に働きかけるなどの活動をすることは、その目的の範囲内の行為であり、右の目的に沿った活動をする団体が被上告人とは別に存在する場合に、被上告人が右団体に右活動のための資金を寄付し、その活動を助成することは、なお被上告人の目的の範囲内の行為である。
2 南九各県税政は、規正法上の政治団体であるが、被上告人に許容された前記活動を推進することを存立の本来的目的とする団体であり、その政治活動は、税理士の社会的、経済的地位の向上、民主的税理士制度及び租税制度の確立のために必要な活動に限定されていて、右以外の何らかの政治的主義、主張を掲げて活動するものではなく、また、特定の公職の候補者の支持等を本来の目的とする団体でもない。
3 本件決議は、南九各県税政を通じて特定政党又は特定政治家へ政治献金を行うことを目的としてされたものとは認められず、また、上告人に本件特別会費の拠出義務を肯認することがその思想及び信条の自由を侵害するもので許されないとするまでの事情はなく、結局、公序良俗に反して無効であるとは認められない。本件決議の結果、上告人に要請されるのは五〇〇〇円の拠出にとどまるもので、本件決議の後においても、上告人が税理士法改正に反対の立場を保持し、その立場に多くの賛同を得るように言論活動を行うことにつき何らかの制約を受けるような状況にもないから、上告人は、本件決議の結果、社会通念上是認することができないような不利益を被るものではない。
4 上告人は、本件特別会費を滞納していたものであるから、役員選任規則に基づいて選挙人名簿に上告人を登載しないで役員選挙を実施した被上告人の措置、手続過程にも違法はない。

  五 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 税理士会が政党など規正法上の政治団体に金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するためのものであっても、法四九条二項で定められた税理士会の目的の範囲外の行為であり、右寄付をするために会員から特別会費を徴収する旨の決議は無効であると解すべきである。すなわち、
(一) 民法上の法人は、法令の規定に従い定款又は寄付行為で定められた目的の範囲内において権利を有し、義務を負う(民法四三条)。この理は、会社についても基本的に妥当するが、会社における目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行する上に直接又は間接に必要な行為であればすべてこれに包含され(最高裁昭和二四年(オ)第六四号同二七年二月一五日第二小法廷判決・民集六巻二号七七頁、同二七年(オ)第一〇七五号同三〇年一一月二九日第三小法廷判決・民集九巻一二号一八八六頁参照)、さらには、会社が政党に政治資金を寄付することも、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためにされたものと認められる限りにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為とするに妨げないとされる(最高裁昭和四一年(オ)第四四四号同四五年六月二四日大法廷判決・民集二四巻六号六二五頁参照)。
(二) しかしながら、税理士会は、会社とはその法的性格を異にする法人であって、その目的の範囲については会社と同一に論ずることはできない
税理士は、国税局の管轄区域ごとに一つの税理士会を設立すべきことが義務付けられ(法四九条一項)、税理士会は法人とされる(同条三項)。また、全国の税理士会は、日税連を設立しなければならず、日税連は法人とされ、各税理士会は、当然に日税連の会員となる(法四九条の一四第一、第三、四項)。
税理士会の目的は、会則の定めをまたず、あらかじめ、法において直接具体的に定められている。すなわち、法四九条二項において、税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とするとされ(法四九条の二第二項では税理士会の目的は会則の必要的記載事項ともされていない。)、法四九条の一二第一項においては、税理士会は、税務行政その他国税若しくは地方税又は税理士に関する制度について、権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができるとされている。
また、税理士会は、総会の決議並びに役員の就任及び退任を大蔵大臣に報告しなければならず(法四九条の一一)、大蔵大臣は、税理士会の総会の決議又は役員の行為が法令又はその税理士会の会則に違反し、その他公益を害するときは、総会の決議についてはこれを取り消すべきことを命じ、役員についてはこれを解任すべきことを命ずることができ(法四九条の一八)、税理士会の適正な運営を確保するため必要があるときは、税理士会から報告を徴し、その行う業務について勧告し、又は当該職員をして税理士会の業務の状況若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる(法四九条の一九第一項)とされている。
さらに、税理士会は、税理士の入会が間接的に強制されるいわゆる強制加入団体であり、法に別段の定めがある場合を除く外、税理士であって、かつ、税理士会に入会している者でなければ税理士業務を行ってはならないとされている(法五二条)。
(三) 以上のとおり、税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的として、法が、あらかじめ、税理士にその設立を義務付け、その結果設立されたもので、その決議や役員の行為が法令や会則に反したりすることがないように、大蔵大臣の前記のような監督に服する法人である。また、税理士会は、強制加入団体であって、その会員には、実質的には脱退の自由が保障されていない(なお、前記昭和五五年法律第二六号による改正により、税理士は税理士名簿への登録を受けた時に、当然、税理士事務所の所在地を含む区域に設立されている税理士会の会員になるとされ、税理士でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならないとされたが、前記の諸点に関する法の内容には基本的に変更がない。)。
税理士会は、以上のように、会社とはその法的性格を異にする法人であり、その目的の範囲についても、これを会社のように広範なものと解するならば、法の要請する公的な目的の達成を阻害して法の趣旨を没却する結果となることが明らかである。
(四) そして、税理士会が前記のとおり強制加入の団体であり、その会員である税理士に実質的には脱退の自由が保障されていないことからすると、その目的の範囲を判断するに当たっては、会員の思想・信条の自由との関係で、次のような考慮が必要である。
税理士会は、法人として、法及び会則所定の方式による多数決原理により決定された団体の意思に基づいて活動し、その構成員である会員は、これに従い協力する義務を負い、その一つとして会則に従って税理士会の経済的基礎を成す会費を納入する義務を負う。しかし、法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、様々の思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されている。したがって、税理士会が右の方式により決定した意思に基づいてする活動にも、そのために会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がある。
特に、政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきである。なぜなら、政党など規正法上の政治団体は、政治上の主義若しくは施策の推進、特定の公職の候補者の推薦等のため、金員の寄付を含む広範囲な政治活動をすることが当然に予定された政治団体であり(規正法三条等)、これらの団体に金員の寄付をすることは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につながる問題だからである。
法は、四九条の一二第一項の規定において、税理士会が、税務行政や税理士の制度等について権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができるとしているが、政党など規正法上の政治団体への金員の寄付を権限のある官公署に対する建議や答申と同視することはできない。
(五) そうすると、前記のような公的な性格を有する税理士会が、このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないというべきであり(最高裁昭和四八年(オ)第四九九号同五〇年一一月二八日第三小法廷判決・民集二九巻一〇号一六九八頁参照)、税理士会がそのような活動をすることは、法の全く予定していないところである。税理士会が政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、法四九条二項所定の税理士会の目的の範囲外の行為といわざるを得ない
2 以上の判断に照らして本件をみると、本件決議は、被上告人が規正法上の政治団体である南九各県税政へ金員を寄付するために、上告人を含む会員から特別会費として五〇〇〇円を徴収する旨の決議であり、被上告人の目的の範囲外の行為を目的とするものとして無効であると解するほかはない。
原審は、南九各県税政は税理士会に許容された活動を推進することを存立の本来的目的とする団体であり、その活動が税理士会の目的に沿った活動の範囲に限定されていることを理由に、南九各県税政へ金員を寄付することも被上告人の目的の範囲内の行為であると判断しているが、規正法上の政治団体である以上、前判示のように広範囲な政治活動をすることが当然に予定されており、南九各県税政の活動の範囲が法所定の税理士会の目的に沿った活動の範囲に限られるものとはいえない。因みに、南九各県税政が、政治家の後援会等への政治資金、及び政治団体である南九税政への負担金等として相当額の金員を支出したことは、原審も認定しているとおりである。

六 したがって、原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、その余の論旨について検討するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、以上判示したところによれば、上告人の本件請求のうち、上告人が本件特別会費の納入義務を負わないことの確認を求める請求は理由があり、これを認容した第一審判決は正当であるから、この部分に関する被上告人の控訴は棄却すべきである。また、上告人の損害賠償請求については更に審理を尽くさせる必要があるから、本件のうち右部分を原審に差し戻すこととする。
よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、四〇七条一項、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

+++解説
二 甲は、本件訴訟を提起し、公的性質をもつ強制加入団体である税理士会乙が規正法上の政治団体である南九各県税政へ金員を寄付するのは税理士会の目的の範囲外の行為であって、そのために会員から特別会費を徴収する旨の本件決議は、結局、特定の政党や候補者への寄付を会員に強制することになり、反対の意思を有していた甲の思想、信条の自由(憲法一九条)を侵害するもので無効である、本件特別会費の滞納を理由として役員選挙における甲の選挙権及び被選挙権を停止した乙の措置は不法行為である、などと主張して、乙に対し、① 本件特別会費五〇〇〇円の納入義務が存在しないことの確認、② 損害賠償として慰謝料五〇〇万円等の支払を求めた。
乙は、税理士法改正について政治的活動をすることは、税理士の社会的経済的地位の向上を図ることに直結するから、税理士会自体が右政治的活動をすることは無論、右の政治活動を行うことを目的とする南九各県税政に寄付をすることも乙の権利能力の範囲内の行為である、などと主張した。

三 第一審判決(本誌五八四号七六頁)は、詳細な理由説示をして、本件決議は、乙が権利能力を有しない事柄を内容とする議案につき決議したもので民法四三条に違反して無効である、仮に有効であるとしても、本件決議に反対していた甲に本件特別会費の納入を強制することはできない、甲についての役員の選挙権、被選挙権の停止措置はXに対する不法行為である、などと判断し、甲の①の請求を認め、②の請求も一五〇万円と遅延損害金の限度で認めた。
原審判決(本誌七八六号一一九頁)は、一審とは逆に、甲の①②の請求を全部排斥した。その判断の要旨は、(1) 本件決議は、本件特別会費をもって南九各県税政を通じて特定政党又は特定政治家へ政治献金を行うことを目的としてされたものとは認められない、(2) 政治団体である南九各県税政への寄付は、乙の目的の範囲外の行為であるとはいえない、(3) 本件決議により甲に本件特別会費の拠出義務を肯認することが、甲の思想、信条の自由を侵害するもので許されないとするまでの事情はなく、本件決議が公序良俗に反して無効であるとは認められない、(4) 本件決議により乙が南九各県税政へ寄付をし、南九各県税政が特定の政治家の後援会等に寄付をすると、本件特別会費の支出が、結局、特定政治家の一般的な政治的立場の支援になるという関係が生じないわけではないが、それは迂遠且つ希薄である、(5) 甲は、本件特別会費を滞納していたから、選挙人名簿に甲を登載しないで役員選挙を実施した乙の措置等にも違法はない、というものであった。
甲から上告。上告理由は多岐にわたるが、本判決が問題とするのは、税理士会が政党など規正法上の政治団体に金員の寄付をすることが税理士会の目的の範囲外の行為かどうか、そのために会員から特別会費を徴収する旨の決議が無効かどうかについての点である。

四 本判決は、前記判決要旨のとおり判断し、原判決を破棄して、甲の①の請求は理由があるとして自判し、②の請求についてはさらに審理を尽くさせる必要があるとして原審に差し戻した。

五 ところで、八幡製鉄政治献金事件の最高裁大法廷判決(①最大判昭45・6・24民集二四巻六号六二五頁、本誌二四九号一一六頁)は、営利法人である会社が政党にする政治献金と国民の選挙権その他の参政権との関係につき、会社は、自然人たる国民と同様に、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有し、政治資金の寄付もまさにその自由の一環であり、会社によってそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあったとしても、これを自然人たる国民による寄付と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない、などと判示するとともに、会社の構成員が政治的信条を同じくするものでないとしても、会社による政治資金の寄付が、特定の構成員の利益を図りまたその政治的志向を満足させるためではなく、社会の一構成単位たる立場にある会社に対し期待ないし要請されるかぎりにおいてなされるものである以上、会社にそのような政治資金の寄付をする能力がないとはいえないなどと判示し、結局、会社が政党に政治献金をすることも、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためにされたものと認められる限りにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為とするに妨げないと判断した。
その後、国労広島地方本部事件の最高裁判決(②最三小判昭50・11・28民集二九巻一〇号一六九八頁、本誌三三〇号二一三頁)は、労働組合の構成員の協力義務について、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかは、投票の自由と表裏をなすもので、個人が市民としての個人的な政治思想、見解、判断ないしは感情等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるから、労働組合(国労)が、総選挙において出身候補者の支持を決定し、右立候補者の所属政党に国労政治連盟を通じて寄付をするため、臨時組合費を徴収する決議をしたとしても、組合員は右臨時組合費を納付する義務を負わないと判断し、構成員個人の思想、信条の自由の観点から労働組合の構成員の協力義務に一定の限界を認めた。

六 本判決は、法で設立が義務付けられ、その目的も法で特定されている税理士会について、その目的の範囲について会社と同一に論ずることはできないとした上、法に具体的に規定されている税理士会の目的の範囲の内容を検討し、税理士会がいわゆる強制加入団体であって、会員には様々の思想、信条の者がいることが当然に予定されているところから、法が予定した税理士会の活動の範囲にも限界があるもので、税理士会が政党など規正法上の政治団体に金員の寄付をすることは、会員個人が市民としての個人的な政治的思想、見解等に基づいて自主的に決定すべき事柄であり、かような事柄を税理士会が多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないだけでなく、そもそも税理士会がそのような活動をすることを法は全く予定していないと解し、結局、そのような行為は目的の範囲外の行為であると判断したものである。

七 すでに、大阪合同税理士会を被告として、右税理士会に所属する税理士らが、本件と同様の主張をして、納入した特別会費分の不当利得返還請求をした事案について、最高裁(最一小判平5・5・27本誌八四二号一二〇頁)は、原告らの請求を排斥した原審の判断を維持する判決をした(要件事実の構成が不十分であったため、法廷意見はその点を説示して上告棄却した。)。三好裁判官は、右判決の補足意見において、税理士会が政治活動をし、又は政治団体に対し金員を拠出することは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関してであっても、構成員である税理士会の政治活動の自由を侵害する結果となることを免れず、税理士会の権利能力の範囲を逸脱することは明らかである、との判断を明らかにしている。
本判決の判断も、結論的には三好補足意見と同旨であり、その理由も基本的には三好補足意見と同趣旨の部分が多いが、細部については若干異なる説示もみられる。まず、三好補足意見が、営利を目的としない団体についても、それが任意加入団体である限り①の八幡製鉄政治献金事件の大法廷判決の判断が原則として妥当すると解しているのに対し、本判決は、会社については①の判例がある旨説示するだけで、会社以外の公益法人について右判例が妥当するとの説示はない。むしろ、本判決の理由においては、①の判例を引用しながらも、これとは一歩距離を置いたともみられる説示がされている。また、三好補足意見は、金員の寄付以外の税理士会の政治活動一般についても、構成員の政治活動の自由の観点から問題にしているのに対し、本判決は、政党など政治団体の活動一般に対する支援になる金員の寄付に限って説示しており、税理士会のその他の政治活動については触れていない(法四九条の一二第一項の「建議」以外にも、その延長線上にある政治的アピールの範囲内で政治的活動が可能であるとする見解として西鳥羽和明・判評四三二号五六頁がある。)。

八 会社についての前記①の判例には、わが国の政治の現状に対する評価とも関連して様々の批評があるが(純粋に法的な視点からの近時の批判として武藤春光・商事一三四三号三七頁)、右の判決の理由説示には法人の構成員(株主)の個人的な思想・信条の自由に対する配慮は特に窺えない。労働組合についての前記②の判例は、労働組合の活動については、その範囲を民法四三条の目的の範囲で制約せずに広く解した上で、労働組合と組合員との関係では、多数決の原理に基づくその統制力をもってしても、投票の自由と表裏をなすような、組合員個人が市民としての個人的な思想等に基づいて自主的に決定すべき事柄について、労働組合が組合員の協力を強制することはできないと判断したもので、これは、団体の多数決原理による決議や活動にも憲法で保障された構成員の思想信条との関係からの制約があることを前提とした注目すべき重要な判断であったといえる。
対象とする団体の法的性質はそれぞれ異なり、構成員の脱退の自由や困難性の問題もあるが、①②の各判例の理由説示と本判決の理由説示を比較してみると、①の判例が法人実在説的な考え方を徹底させた説示をしているのに対し、②の判例や本判決は、法人が行う政治活動とその構成員個人の思想・信条の自由という問題について、憲法で保障された個々の構成員の思想信条の自由を重視した説示がされていることが注目される。

九 平成六年の政治改革関連の法改正の一つとしての政治資金規正法の改正により、会社、労組その他の団体(税理士会も含まれる。)は、政党、政治資金団体及び資金管理団体以外の政治団体(税理士政治連盟のようないわばトンネル機関としての政治団体も含まれる。)に政治献金をすることが禁止されるに至った。しかし、右改正の後も、法律の明文上は、税理士会が政党や政治資金団体に対して政治献金をすることを禁止した規定は存在しない。
本判決は、税理士会が政党などの規制法上の政治団体に金員の寄付をすることがその目的の範囲外の行為であると判断した初めての最高裁判決であり、その判断は、税理士会のような公的性格を有する法人の政治献金の問題のみならず、前記のとおり、法人の活動とその構成員の思想・信条の自由の問題についての最高裁としての極めて重要な判断ということができると思われる。

・税理士会は公益法人であり、また、その会員である税理士に実質的に脱退の事由が認められていないから、税理士会がする政治資金規正法上の政治団体に対する政治献金は、それが税理士法改正にかかわるものであったとしても、税理士会の目的の範囲外の行為と解される!!!

・群馬司法書士会事件
+判例(H14.4.25)
理由
上告代理人樋口和彦、同大谷豊、同平山知子及び同遠藤秀幸、上告人ら並びに上告補助参加人の各上告受理申立て理由について
1 本件は、司法書士法一四条に基づいて設立された司法書士会である被上告人が、阪神・淡路大震災により被災した兵庫県司法書士会に三〇〇〇万円の復興支援拠出金(以下「本件拠出金」という。)を寄付することとし、その資金は役員手当の減額等による一般会計からの繰入金と被上告人の会員から登記申請事件一件当たり五〇円の復興支援特別負担金(以下「本件負担金」という。)の徴収による収入をもって充てる旨の総会決議(以下「本件決議」という。)をしたところ、被上告人の会員である上告人らが、(1)本件拠出金を寄付することは被上告人の目的の範囲外の行為であること、(2)強制加入団体である被上告人は本件拠出金を調達するため会員に負担を強制することはできないこと等を理由に、本件決議は無効であって会員には本件負担金の支払義務がないと主張して、債務の不存在の確認を求めた事案である。
2 原審の適法に確定したところによれば、本件拠出金は、被災した兵庫県司法書士会及び同会所属の司法書士の個人的ないし物理的被害に対する直接的な金銭補てん又は見舞金という趣旨のものではなく、被災者の相談活動等を行う同司法書士会ないしこれに従事する司法書士への経済的支援を通じて司法書士の業務の円滑な遂行による公的機能の回復に資することを目的とする趣旨のものであったというのである。
司法書士会は、司法書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とするものであるが(司法書士法一四条二項)、その目的を遂行する上で直接又は間接に必要な範囲で、他の司法書士会との間で業務その他について提携、協力、援助等をすることもその活動範囲に含まれるというべきである。そして、三〇〇〇万円という本件拠出金の額については、それがやや多額にすぎるのではないかという見方があり得るとしても、阪神・淡路大震災が甚大な被害を生じさせた大災害であり、早急な支援を行う必要があったことなどの事情を考慮すると、その金額の大きさをもって直ちに本件拠出金の寄付が被上告人の目的の範囲を逸脱するものとまでいうことはできない。したがって、兵庫県司法書士会に本件拠出金を寄付することは、被上告人の権利能力の範囲内にあるというべきである。
そうすると、被上告人は、本件拠出金の調達方法についても、それが公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がある場合を除き、多数決原理に基づき自ら決定することができるものというべきである。これを本件についてみると、被上告入がいわゆる強制加入団体であること(同法一九条)を考慮しても、本件負担金の徴収は、会員の政治的又は宗教的立場や思想信条の自由を害するものではなく、また、本件負担金の額も、登記申請事件一件につき、その平均報酬約二万一〇〇〇円の0.2%強に当たる五〇円であり、これを三年間の範囲で徴収するというものであって、会員に社会通念上過大な負担を課するものではないのであるから、本件負担金の徴収について、公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情があるとは認められない。したがって、本件決議の効力は被上告人の会員である上告人らに対して及ぶものというべきである。
3 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、いずれも採用することができない。
よって、裁判官深澤武久、同横尾和子の各反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

+反対意見
裁判官深澤武久の反対意見は、次のとおりである。
1 私は、本件拠出金の寄付が被上告人の目的の範囲を逸脱するものではなく、その調達方法についても、会員の協力義務を否定すべき特段の事情は認められないとし、また、被上告人が強制加入団体であることを考慮しても、本件負担金の徴収は、会員の政治的又は宗教的立場や思想信条の自由を害するものではなく、会員に社会通念上過大な負担を課するものではない、とする法廷意見に賛同することができない。
その理由は次のとおりである。
2(1) 司法書士となる資格を有する者が司法書士となるには、その者が事務所を設けようとする地を管轄する法務局又は地方法務局の管轄区域内に設立された司法書士会を経由して日本司法書士会連合会に登録をしなければならない(司法書士法六条一項、六条の二第一項)。登録をしないで司法書士の業務を行った場合は一年以下の懲役又は三〇万円以下の罰金が定められている(同法一九条一項、二五条一項)。このように被上告人は、司法書士になろうとする者に加入を強制するだけでなく、会員が司法書士の業務を継続する間は脱退の自由を有しない公的色彩の強い厳格な強制加入団体である。
(2) このことは会員の職業選択の自由、結社の自由を制限することになるが、これは司法書士法が、司法書士の業務の適正を図り、国民の権利の保全に寄与することを目的とし(同法一条)、司法書士会が業務の改善を図るため会員の指導・連絡に関する事務を行う(同法一四条二項)という公共の福祉の要請による規制として許容されているのである。このように公的な性格を有する司法書士会は、株式会社等営利を目的とする法人とは法的性格を異にし、その目的の範囲も会の目的達成のために必要な範囲内で限定的に解釈されなければならない
(3) 被上告人も社会的組織として相応の社会的役割を果たすべきものであり、本件拠出金の寄付も相当と認められる範囲においてその権利能力の範囲内にあると考えられる。ところで、本件決議当時、被上告人の会員は二八一名で年間予算は約九〇〇〇万円であり、経常費用に充当される普通会費は一人月額九〇〇〇円でその年間収入は三〇三四万八〇〇〇円であるから、本件拠出金は、被上告人の普通会費の年間収入にほぼ匹敵する額であり、被上告人より多くの会員を擁すると考えられる東京会の五〇〇万円、広島会の一〇〇〇万円、京都会の一〇〇〇万円の寄付に比して突出したものとなっている。これに加えて被上告人は本件決議に先立ち、一般会計から二〇〇万円、会員からの募金一〇〇万円とワープロ四台を兵庫県司法書士会に寄付している。司法書士会設立の目的、法的性格、被上告人の規模、財政状況(本件記録によれば、被上告人においては、平成七年一月頃、同年度の予算編成について、会費の増額が話題になったこともうかがえる。)などを考慮すれば、本件拠出金の寄付は、その額が過大であって強制加入団体の運営として著しく慎重さを欠き、会の財政的基盤を揺るがす危険を伴うもので、被上告人の目的の範囲を超えたものである。
3(1) 被上告人は2(1)のような性格を有する強制加入団体であるから、多数決による決定に基づいて会員に要請する協力義務にも自ずから限界があるというべきである。
(2) 本件決議は、本件拠出金の調達のために特別負担金規則を改正して、従前の取扱事件数一件につき二五〇円の特別負担金に、復興支援特別負担金として五〇円を加えることとしたのであるが、決議に従わない会員に対しては、会長が随時注意を促し、注意を受けた会員が義務を履行しないときはその一〇倍相当額を会に納入することを催告するほか、会則に、ア 被上告人の定める顕彰規則による顕彰を行わない、イ 共済規則が定める傷病見舞金、休業補償金、災害見舞金、脱会一時金の共済金の給付及び共済融資を停止し、既に給付又は貸付を受けた者は直ちにその額を返還しなければならない、ウ 注意勧告を行ったときは、被上告人が備える会員名簿に注意勧告決定の年月日及び決定趣旨を登載することなどの定めがあり、また、総会決議の尊重義務を定めた会則に違反するものとして、その司法書士会の事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長に報告し(司法書士法一五条の六、一六条)、同法務局又は地方法務局の長の行う懲戒の対象(同条一二条)にもなり得るのである。
(3) 本件拠出金の寄付は、被上告人について法が定める本来の目的(同法一四条二項)ではなく、友会の災害支援という間接的なものであるから、そのために会員に対して(2)記載のような厳しい不利益を伴う協力義務を課することは、目的との間の均衡を失し、強制加入団体が多数決によって会員に要請できる協力義務の限界を超えた無効なものである
4 以上のとおり、本件決議は、被上告人の目的の範囲を逸脱し、かつ、本件負担金の徴収は多数決原理によって会員に協力を求め得る限界を超えた無効なものであるから、これと異なる原判決は破棄し、被上告人の控訴は理由がないものとして棄却すべきである。

+反対意見
裁判官横尾和子の反対意見は、次のとおりである。
私は、本件拠出金を寄付することは被上告人の目的の範囲外の行為であると考える。その理由は、次のとおりである。
司法書士法一四条二項は、「司法書士会は、司法書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とする。」と規定している。この定めは、基本的には、当該司法書士会の会員である同司法書士を対象とするものであるが、司法書士業務の改善進歩を図るために、被災した他の司法書士会又はその会員に見舞金を寄付することも、それが社会的に相当と認められる応分の寄付の範囲内のものである限り、司法書士会の権利能力の範囲内にあるとみる余地はある。しかしながら、原審が適法に確定した事実関係によれば、<1>本件決議がされた前後の被上告人の年間予算は約九〇〇〇万円であった、<2>本件決議以前に発生した新潟地震や北海道奥尻島沖地震、長崎県雲仙普賢岳噴火災害等の災害に対し儀礼の範囲を超える義援金が送られたことはない、<3>被上告人の会員について火災等の被災の場合拠出される見舞金は五〇万円である(共済規則一八条)というのであり、このような事実を考慮すると、後記のような趣旨、性格を有する本件の三〇〇〇万円の寄付は、社会的に相当と認められる応分の寄付の範囲を大きく超えるものであるといわざるを得ず、それが被上告人の権利能力の範囲内にあるとみることはできないというべきである。
原審が適法に確定した事実関係によれば、<1>本件決議の決議案の提案理由(平成七年二月一〇日ころ臨時総会の開催通知とともに被上告人の会員に送付された。)及び本件決議の行われた臨時総会議事録によれば、本件決議案の提案理由の中には、「被災会員の復興に要する費用の詳細は(中略)、最低一人当たり数百万円から千万円を超える資金が必要になると思われる。」との記載があり、被災司法書士事務所の復興に要する費用をおよそ三五億円とみて、その半額を全国の司法書士会が拠出すると仮定して被上告人の拠出金額三〇〇〇万円を試算していること等からすると、本件拠出金の使途としては、主として被災司法書士の事務所再建の支援資金に充てられることが想定されていたとみる余地がある、<2>本件拠出金については、その後、司法書士会又は司法書士の機能の回復に資することを目的とするものであるという性格付けがされていったとしても、前記のように試算した三〇〇〇万円という金額は変更されなかった、<3>本件拠出金の具体的な使用方法は、挙げて寄付を受ける兵庫県司法書士会の判断運用に任せたものであったというのであり、このような事実等によれば、本件拠出金については、被災した司法書士の個人的ないし物理的被害に対する直接的な金銭補てんや見舞金の趣旨、性格が色濃く残っていたものと評価せざるを得ない。
よって、本件拠出金を寄付することが被上告人の権利能力の範囲内であるとして上告人らの請求を棄却した原判決はこれを破棄し、上記と同旨の第一審の判断は正当であるから、被上告人の控訴は理由がないものとして棄却すべきである。

++解説
一 事案の概要
1 本件は、司法書士会である被告(被上告人)がした、阪神大震災により被災した兵庫県司法書士会に三〇〇〇万円の復興支援拠出金を送金するために、被告の会員から登記申請一件当たり五〇円の復興支援特別負担金の徴収を行う旨の総会決議について、被告の会員である原告(上告人)らが、同決議は無効であると主張して、同決議に基づく債務の不存在確認を求めた事案である。
なお、司法書士会は、司法書士法一四条により、法務局又は地方法務局の管轄区域ごとに設立が義務づけられている団体であり、司法書士会に入会している司法書士でない者は司法書士の業務を行ってはならないとされている(同法一九条一項)。
2 原告らの主張は、次のとおりである。
① 本件拠出金の支出は被告の目的の範囲外の行為であるから、本件決議は無効である。
② 義務なき行為を強制する本件決議は、強制加入の公益法人としてなし得る範囲を超えており、法律に基づかずに原告らの財産権を侵害するものであり、さらに、強制される者の思想・信条を害するものであるから、公序良俗に反し無効である。
3 一審の前橋地裁は、本件拠出金の支出は司法書士法一四条二項所定の司法書士会の目的の範囲外の行為であるなどとして、原告らの請求を認容した。これに対し、二審の東京高裁は、本件拠出金は、被災司法書士会・司法書士の業務の円滑な遂行を経済的に支援することにより、司法書士会・司法書士の機能の回復に資することを目的とするもので、その使途目的及び拠出方法の公的性格に着目していうならば、被告からの「公的支援金」ともいえるものであるとした上で、これを司法書士会の目的の範囲内の行為であると認め、多数決によりそれが決定された以上は、これに反対の意見をもつ会員にも協力義務があると判断して、一審判決を取り消し、原告らの請求を棄却した。
4 上告受理申立ての理由は、民法四三条、九〇条、司法書士法一四条二項等の解釈適用の誤り、判例違反などをいうものであった

二 本判決は、司法書士会は、司法書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とするものであるが(司法書士法一四条二項)、その目的を遂行する上で直接又は間接に必要な範囲で、他の司法書士会との間で業務その他について提携、協力、援助等をすることもその活動範囲に含まれるというべきであるとして、兵庫県司法書士会に本件拠出金を寄付することは、被告の権利能力の範囲内にあるというべきであるとした上で、被告がいわゆる強制加入団体であることを考慮しても、本件負担金の徴収は会員の政治的又は宗教的立場や思想信条の自由を害するものではなく、また、本件負担金の額も会員に社会通念上過大な負担を課するものではないから、本件負担金の徴収について公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情があるとは認められず、本件決議の効力は被告の会員である原告らに対して及ぶとして、本件上告を棄却した。
なお、本判決には、深澤裁判官及び横尾裁判官の各反対意見がある。深澤裁判官の反対意見は、本件拠出金の寄付は、被告の目的の範囲を超えるものであり、また、強制加入団体が多数決によって会員に要請できる協力義務の限界を超えた無効なものであるというものである。横尾裁判官の反対意見は、本件拠出金の寄付は被告の目的の範囲外の行為であるというものである。

三1 まず、本件拠出金の寄付は被告の目的の範囲内の行為であるか、という点については、法人は、法令の規定に従い定款又は寄付行為で定められた目的の範囲内において権利を有し、義務を負う(民法四三条)のであるが、その目的の範囲内の行為とは、定款等に目的として記載された個々の行為に限られるものではなく、その目的達成のために必要な行為についても、一定の範囲でこれに包含されるものと解するのが通説(我妻榮・新訂民法総則一五七頁等参照)であり、判例の基本的立場でもあるところ、本判決はこれと同旨をいうものである。司法書士法一四条二項に規定する「司法書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため」という目的の対象となるのは基本的には当該司法書士会の会員たる司法書士であるとしても、他の司法書士会又はその会員への支援によって司法書士全体の品位を保持し、その業務の改善進歩を図ること等は、自己の会員の品位を保持する等という目的の達成に資すると考えることもできるのであるから、被災した他の司法書士会又はその会員に対する支援も、それが、被災者の相談活動等を行う司法書士への経済的支援を通じて司法書士の業務の円滑な遂行による公的機能の回復に資することを目的とする趣旨のものであったという本件の事実関係の下においては、上記の目的達成に必要な行為として、被告の目的の範囲に含まれると解することができると考えられる。
ところで、司法書士会は、法律によってその設立が義務付けられた強制加入団体であって、その会員には実質的には脱退の自由が保障されていない。司法書士会のこのような法的性格は、税理士会等とよく似ている。そこで、「税理士会が政党など政治資金規正法上の政治団体に金員を寄付することは、税理士会の目的の範囲外の行為である。」とした最三小判平8・3・19民集五〇巻三号六一五頁(南九州税理士会政治献金事件)との関係が問題となる。しかしながら、被災した司法書士会又は司法書士のために復興支援拠出金を支出することは、政党など政治資金規正法上の政治団体に対して金員の寄付をすることとは性質の大きく異なる行為であると考えられる。すなわち、政党など政治資金規正法上の政治団体に金員の寄付をするかどうかは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につながる問題であり、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人がその政治的思想等に基づいて自主的に決定すべき事柄である。これに対し、阪神大震災により被災した兵庫県司法書士会に対して復興支援拠出金を寄付することは、特定の政治的立場を支援するものではないのであるから、必ずしも会員各人がその個人的な思想等に基づいて自主的に決定しなければならない事柄ではなく、司法書士会が団体として決定することができる事柄であると考えられる。
この点に関して、同旨を述べるものとして、西原博史・法教二三四号別冊・セレクト’99(憲法)六頁、市川正人・ジュリ一一七九号一〇頁、甲斐道太郎・NBL六二五号五九頁、山田創一・山梨学院大学法学論集三九巻一八八頁、倉田原志・法セ五三九号一〇七頁等があり、反対の見解を述べるものとして、大野秀夫・判評四七四号四一号、渡辺康行・法教二一二号三六頁がある。また、参考となるその他の判例として、いわゆるスパイ活動防止法に反対する総会決議をすることが日弁連の権利能力の範囲内にあるとした東京高判平4・12・21自正四四巻二号九九頁及びその上告審判決である最二小判平10・3・13自正四九巻五号二一三頁、弁護士会は、警察官の特別公務員暴行陵虐被告事件につき、弁護士会自身として告発をし、付審判請求をする権能を有すると判示した最三小決昭36・12・26刑集一五巻一二号二〇五八頁、本誌一二六号五〇頁等がある。
2 次に、原告らは本件決議に従うべき義務を負うか、という点については、構成員個人の思想、信条の自由の観点から労働組合の構成員の協力義務に一定の限界を認めた最三小判昭50・11・28民集二九巻一〇号一六九八頁、本誌三三〇号二一三頁(国労広島地方本部事件)との関係が問題となる。この判例は、労働組合が、いわゆる安保反対闘争実施の費用として、又は公職選挙に際し特定の立候補者の選挙運動支援のためその所属政党に寄付する資金として、徴収する臨時組合費について、このような政治的要求に賛成するか反対するか、又は選挙においてどの政党を支持するかは、本来、組合員各人が市民としての個人の思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるから、組合員に対して協力を強制することはできないとしたものである。しかし、本件の復興支援拠出金の支出は、阪神大震災で被災した兵庫県司法書士会に対してされるものであり、政治的活動に対する積極的協力の強制や、一定の政治的立場に対する支持表明の強制などとは異なり、この拠出金について一定の負担を強制しても、会員個人の思想、信条等に関係する程度は軽微なものであるから、本件はこの判例とは事案を異にするものである。また、本件決議によって会員に課される負担が不当に重いものであるなどの事情もないのであるから、そのような観点からも、これへの協力を強制することが公序良俗違反になるとはいえない。
四 本判決の判示する内容は、特に目新しいものでないが、これまでに問題となった前記各判例の事例とは異なり、被災した他の司法書士会に対する寄付の当否が問題となったものであって、事例的な意義があり、また、二人の裁判官の反対意見が付されていることからも、注目されるべき判例であると考えられる。
なお、司法書士法は、本判決が言い渡された後の平成一四年五月七日に公布された同年法律第三三号(施行日平成一五年四月一日)によって改正され、一四条は、若干の修正の上五二条とされている。